「債務整理」譲渡債権に善管注意義務・忠実義務が存在した場合

第1 事案の概要

本件は,経営破綻した株式会社北海道拓殖銀行から債権の譲渡を受けた原告が,同銀行の取締役であった被告らに対し,被告らが取締役の負う善管注意義務・忠実義務に違反する融資を実行したことによって同銀行が多額の損害を被ったと主張して,商法266条1項5号に基づき,損害金及びこれに対する訴状送達の日の翌日以後の日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

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1 前提事実

(争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。
認定に用いた証拠は各項に記載した。なお,以下,号証番号のもとに枝番号のある書証について,号証番号のみを示して枝番号を明示しない場合には,その号証番号のもとにある枝番号の書証すべてを含むものとして表記する。)
(1) 当事者など
ア 原告
株式会社住宅金融債権管理機構は,平成11年4月1日,本件訴え提起当時の原告であった株式会社整理回収銀行を合併し,商号を現在の原告の商号に変更した。
イ 株式会社北海道拓殖銀行(以下「拓銀」という。)
拓銀は,明治33年2月16日,北海道拓殖銀行法に基づき設立され,昭和25年,普通銀行に転換し,昭和30年,都市銀行に加入し,昭和50年代には,国内外に200を超える本店・支店などの拠点網を有していたが,平成9年11月17日,経営が破綻した。
ウ 被告A(以下「被告A」という。)
被告Aは,平成元年4月1日から平成6年6月28日まで拓銀の代表取締役頭取であった。
エ 被告E(以下「被告E」という。)及び被告B(以下「被告B」という。)
被告E及び同Bは,平成元年4月1日から平成5年6月28日まで,拓銀の代表取締役副頭取であった。
オ 被告D(以下「被告D」という。)
被告Dは,平成元年4月1日から平成4年6月25日まで拓銀の常務取締役,同月26日から平成5年6月28日まで拓銀の専務取締役,同月29日から平成6年6月28日まで拓銀の代表取締役副頭取,同月29日から平成9年11月20日まで拓銀の代表取締役頭取であった。
なお,平成元年4月1日から平成2年6月28日まで業務本部長を兼任していた。
カ 被告F(以下「被告F」という。)
被告Fは,平成3年6月27日から平成6年6月28日まで拓銀の代表取締役副頭取であった。
キ 被告G(以下「被告G」という。)
被告Gは,昭和52年10月から昭和58年3月31日まで拓銀の代表取締役副頭取,同年4月1日から平成元年3月31日まで拓銀の代表取締役頭取であった。
ク 被告C(以下「被告C」という。)
被告Cは,昭和58年6月29日から昭和59年5月31日まで拓銀の専務取締役,同年6月1日から昭和63年3月31日まで拓銀の代表取締役副頭取であった。
ケ 株式会社エスコリース(以下「エスコリース」という。)
エスコリースは,昭和41年3月5日に設立され,その主な営業を当初は,機械及び車両などのリースとしていたが,昭和50年,土地投機に失敗したことなどから経営が破綻し,拓銀と日本リース株式会社の支援の下で再建することになった。
拓銀は,そのころ,エスコリースに対し,資本参加をするとともに,昭和50年1月29日,エスコリースに人材を送り込むこととし,エスコリースの代表取締役社長として拓銀OBであるH(以下「H」という。)を,エスコリースの取締役として拓銀の行員であったI(以下「I」という。)を派遣し,同月31日,エスコリースとの間で銀行取引約定書を交わした。
コ 株式会社イージーキャピタルアンドコンサルタンツ(以下「ECC」という。)
ECCは,昭和58年2月23日,中小企業向けの金融と企業経営コンサルタントをうたい文句として設立された株式会社である。
ECCの代表者であるJ(通称はK。以下,証拠中で通称が使用されていることが多いので,「K」という。)は,当時,大阪難波で焼鳥屋チェーン店である「五えんや」を経営していた。
ECCの中小企業に対する貸付原資は,エスコリースが融資していた。
(甲B第20号証)
サ 日伯株式会社(以下「日伯」という。)
日伯は,昭和25年4月11日に設立され(なお,設立時から昭和63年2月5日までの商号は「日伯貿易株式会社」であった。),その主な営業目的を飲食店や旅館の経営とする株式会社である。
かつてKが日伯の経営する料亭で板前として勤務していた経緯から,Kの紹介により,拓銀は,昭和56年から日伯の代表者L個人と与信取引を始め,昭和58年11月から,日伯と与信取引を始めた。
(甲C第1号証,第54号証,第68号証)
(2) 拓銀における融資手続
ア 授信権限の範囲
拓銀では,昭和59年7月1日から平成8年3月15日までの間,権限規程において,一般取引先について次のとおり授信権限の区分を定めていた。
(ア) 頭取,副頭取と担当取締役(又は担当本部長)の合議
融資残高30億円超
(イ) 担当本部長又は担当取締役   融資残高20億円超30億円以下
(ウ) 本部部長           融資残高6億円超20億円以下
(エ) 審査役            融資残高6億円以下
(甲A第4,第5号証)
イ 投融資会議
 拓銀では,「投融資会議について」と題する規程(昭和59年8月14日制定・実施)により,担当本部長の権限(同日から平成8年3月15日の規程改正までは同一人に対する授信残高30億円である。)を超える案件は,頭取,副頭取,担当本部長により構成される投融資会議において決定することとされていた。
(甲A第4号証)
(3) 本件融資@
ア 拓銀は,平成3年4月30日,エスコリースに対し,エスコリースの外国銀行に対する約定弁済金及び国内銀行に対する利息金の支払のための資金(いわゆる肩代わり資金)として,37億円を融資した(以下「本件融資@」という。)。
(甲B第4ないし第7号証)
イ 被告A,同E,同B及び同Dは,本件融資@を承認する旨の決裁をした投融資会議の構成員であった。
ウ 原告の請求の趣旨(1)は,本件融資@によって拓銀が被ったとされる損害金の一部の支払を上記イの被告らに対して求めるものである。
(4) 本件融資AないしC
ア 拓銀は,エスコリースに対し,エスコリースの運転資金として,平成3年6月28日,22億8700万円を融資し(以下「本件融資A」という。なお,同年7月24日に2億8700万円の返済を受けた。),同年7月31日,7億円を融資した(以下「本件融資B」という。)。
(甲B第8ないし第12号証)
拓銀は,平成4年3月31日,エスコリースに対し,エスコリースの国内銀行に対する弁済金の支払のための資金(いわゆる肩代わり資金)として,80億6500万円を融資した(以下「本件融資C」という。)。
(甲B第15,第16号証)
イ 被告A,同E,同B,同F及び同Dは,本件融資AないしCの融資を承認する旨の決裁をした投融資会議の構成員であった。
ウ 原告の請求の趣旨(2)は,本件融資AないしCによって拓銀が被ったとされる損害金の一部の支払を上記イの被告らに対して求めるものである。
(5) 本件融資D
ア 日伯は,ECCから,昭和62年7月3日ころ,35億円を借り入れて,ゴルフ場建設計画に着手した。
イ 拓銀は,昭和62年12月10日,日伯に対し,日伯のECCに対する上記借入金などの支払のための資金(いわゆる肩代わり資金)として,39億2000万円を融資した(以下「本件融資D」という)。
(甲C第2号証,第5号証)
ウ 被告G,同C及び同Aは,本件融資Dを承認する旨の決裁をした投融資会議の構成員であった。
エ 原告の請求の趣旨(3)は,本件融資Dによって拓銀が被ったとされる損害金の一部の支払を上記ウの被告らに対して求めるものである。
(6) 債権譲渡
拓銀の代表取締役は,平成10年11月11日,原告との間で,効力発生日を同月16日とする「資産買取契約書」を交わして資産売買契約を締結し,もって,拓銀の被告らに対する債務不履行に基づく損害賠償債権を原告に対して譲渡し(以下「本件債権譲渡」という。),同年12月3日ないし同月14日ころ,被告らに対し,その旨を通知した。
(甲A第2,第3号証)
(7) 追認
拓銀の監査役は,平成12年2月8日,拓銀の代表取締役のした本件債権譲渡及びそれに付随する一切の行為を追認し,同月10日ないし12日ころ,被告らに対し,その旨を通知した。
(甲A第6ないし第13号証)

2 争点

(1) 拓銀の代表取締役によってされた本件債権譲渡は,有効か。株式会社がその取締役に対する損害賠償債権を譲渡する場合に,その権限は,代表取締役にあるか,それとも,監査役にあるか。
(2) 銀行の取締役の融資に関する注意義務の内容について,銀行の一般的な特性からどのようなものと考えられるか。
(3) 被告A,同E,同B及び同Dは,本件融資@を承認する旨の決裁をしたことについて,商法254条3項,民法644条の定める善管注意義務及び商法254条の3の定める忠実義務(以下,上記善管注意義務及び忠実義務をまとめて「善管注意義務等」ということがある。)に違反したとして,商法266条1項5号に基づく損害賠償義務を負うか。
(4) 被告A,同E,同B,同F及び同Dは,本件融資AないしCを承認する旨の決裁をしたことについて,善管注意義務等に違反したとして,商法266条1項5号に基づく損害賠償義務を負うか。
(5) 被告A,同G及び同Cは,本件融資Dを承認する旨の決裁をしたことについて,善管注意義務等に違反したとして,商法266条1項5号に基づく損害賠償義務を負うか。
(6) 本件融資Dに係る貸付金の弁済(貸替え又は切替)によって損害賠償債務が消滅したものといえるか。
(7) 本件融資Dについての善管注意義務等違反行為と損害との間に因果関係があるか。
(8) 本件融資Dに関する損害賠償債権は,消滅時効期間の経過によって消滅したか。

3 争点についての当事者の主張

(1) 争点(1)(本件債権譲渡の有効性など)について
(被告らの主張)
株式会社が取締役に対して訴えを提起する場合,監査役が株式会社を代表する(商法275条の4)。
取締役と株式会社とのなれ合いの防止という同条の趣旨を全うするためには,監査役が訴えを提起するかどうかを判断する権限を有する以上,株式会社の取締役に対する債権を処分する権限もまた監査役が有すると解すべきである。
本件では,拓銀の監査役が原告に対して債権を譲渡した事実はないから,原告は,原告適格を有しない,又はいまだ損害賠償債権を取得していない。
(原告の主張)
ア 商法275条の4の立法趣旨は,取締役と株式会社との間の利益の衝突及びなれ合い的な訴訟追行の防止にあるところ,株式会社の取締役に対する損害賠償債権が第三者に譲渡された場合には,利益の衝突やなれ合い的な訴訟追行は起こらない。
また,同条の4が,本件のような裁判外の債権譲渡について,代表取締役の代表権を排除した規定とは解されない。
イ 仮に,本件債権譲渡が権限のない拓銀の代表取締役によってされたことによって無効であるとされるとしても,それは,無権代理行為であることになるところ,拓銀の監査役は,平成12年2月8日,拓銀の代表取締役のした本件債権譲渡及びこれに付随する一切の行為を追認し,同月12日までに被告らにその旨を通知したから,本件債権譲渡及びこれに付随する一切の行為は,この追認によって有効となった。
(2) 争点(2)(銀行の取締役の融資に関する注意義務)について
(原告の主張)
ア 銀行の健全性,安全性と取締役の注意義務の内容
被告らは,拓銀の取締役として,善管注意義務(商法254条3項,民法644条)及び忠実義務(商法254条の3)を負う。
銀行は,我が国の金融システムの中核に位置しており,銀行の行う預金又は定期積金の受入れ,資金の貸付け,為替取引などの業務は,経済活動において重要な役割を担っている。このような銀行の機能と社会における役割を重視し,銀行法は,銀行業務の公共性を規定しており,同法によれば,銀行は,信用の維持,預金者の保護,金融の円滑のために,銀行の業務の健全かつ適正な運営をすることが期待されている。
したがって,銀行の運営に当たっては,銀行の健全性,安全性の維持が最高の使命とされなければならない。
そして,商法266条1項5号の「法令」には銀行法も含まれると解されるから,同法の要請する銀行の健全性,安全性維持の原則に反する行為をした取締役は,法令違反行為をしたものとして,商法266条1項5号に基づき株式会社に対する責任を問われることになる。
イ 銀行の取締役の経営判断における裁量
銀行の取締役の経営判断における裁量は,銀行の健全性,安全性の維持の観点から,一般の営利企業に比べて限定されるべきである。
(被告らの主張)
原告の主張は争う。
銀行の取締役が一般の営利企業の取締役に比べて重い注意義務を負担すると解するべきではない。
(3) 争点(3)(本件融資@)について
(原告の主張)
被告A,同E,同B及び同Dには,次のとおり,本件融資@を承認する旨の決裁をしたことについて,善管注意義務等の違反があり,これにより,拓銀に対し,エスコリースから30億0441万5258円の貸付債権を回収できないという損害を被らせた。
ア 業況が悪化した企業に対する融資においては,当該企業の再建可能性,融資の回収可能性,短期的な損失を上回る中長期的な利益について十分検討をする必要がある。
しかし,エスコリースの再建可能性は,主として,エスコリースが約2000億円を貸し付けているECCからの貸付金の回収可能性にかかるところ,ECCの業務実態などに照らすと,エスコリースがECCからの貸付金を回収できる可能性は低く,結局,エスコリースの再建可能性はなかった。
また,本件融資@の資金使途は,エスコリースの他の金融機関への約定弁済金及び利息金の返済(いわゆる肩代わり弁済)であり,融資金の返済原資は全く予想されていなかったもので,融資金の回収可能性はなかった。
そして,本件融資@の資金のうちの23億円は,エスコリースの外国銀行に対する約定弁済金の支払を肩代わりすることを目的としていたが,外国銀行のみに対して,約定弁済金の支払を肩代わりする理由はなかった。
さらに,拓銀がエスコリースから本件融資@に係る貸付金37億円を回収できないとしても得られる中長期的な利益はなかった。
イ 本件融資@に際しては,拓銀はエスコリースから不動産について極度額40億円の根抵当権の設定を受け,また,リース債権のうち金額25億円相当のものについて譲渡担保権を設定することとされていたが,上記根抵当権の対象となる不動産の実効担保価格は融資時の申請書によれば7億円(後の調査によれば11億3100万円)であり,上記リース債権についても債務者に対する譲渡通知を留保することとしたため,いずれも,担保として十分ではなかった。
ウ 本件融資@の目的は,エスコリースを形式上つぶさないこと,他の金融機関への返済資金を補給することで他の金融機関が独自の債権保全に動くことを防止し,さらに,エスコリースの破綻により被告らの責任問題が明らかになることを避けて自らの地位の保全を図ることにあった。
エ したがって,原告は,被告A,同E,同B及び同Dに対し,商法266条1項5号に基づく損害賠償請求として,連帯して,本件融資@によって生じた損害金30億0441万5258円のうちの10億円及びこれに対する訴状送達の日の翌日以後の日である平成11年2月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告A,同E,同B及び同Dの主張)
本件融資@ないしC(以下「本件各融資」という。)は,次のとおり合理的なものであり,この判断に関与した被告A,同E,同B及び同Dには何ら善管注意義務等の違反はない。
ア 本件各融資は,既に実質的に破綻状態にあったエスコリースを直ちに実際に破綻させること(いわゆるハードランディング)によるデメリットが大きいため,諸々の方策を講じながらエスコリースを手順を踏んで清算させること(いわゆるソフトランディング)を目的としてされた拓銀のエスコリースに対する金融支援策の内容の一つであり,本件各融資によって,拓銀に次のとおりの利益がもたらされた。
(ア) 拓銀が系列ノンバンクであるエスコリースに対して本件各融資をしないでその時点で直ちにエスコリースを実際に破綻させた場合には,大きくいえば2つの問題があった。
その一つは,エスコリースの営業内容の一つであるリース業部門は,特に問題のない部門であったところ,エスコリースを破綻させた場合には,エスコリースがこのリース業部門について有する資産価値が無価値になるとともに,リース関係者に混乱をもたらすことになることである。これを回避するには,エスコリースのリース業部門の受け皿会社を設立し,エスコリースがリース業部門について有する資産をこの受け皿会社に譲渡し,これによって,エスコリースがリース業部門について有する資産価値に相当する売買代金を取得することができるし,また,リース関係者に混乱をもたらすこともない。
もう一つは,国内金融機関から,エスコリースが拓銀の系列ノンバンクであると見られていたことから,拓銀がエスコリースを破綻させた場合には,金融界や資金調達市場における拓銀の信用力は極めて低下し,拓銀は,資金調達に困難を来たし,また,調達する資金の金利が上昇し,その損失は年間数百億円規模に及んでしまうおそれがあり,また,たくぎん抵当証券株式会社などの拓銀の系列ノンバンク3社も破綻するおそれがあったことである。これを回避するには,本件融資@ないしCを実行するしかなかった。
(イ) 本件融資@のうちの23億円の資金使途は,エスコリースの外国銀行4行に対する約定弁済金の支払に充てるものであって,いわゆる肩代わり弁済に相当するものであるが,外国銀行は,銀行団による協調支援などには一切応じることがなく,エスコリースから約定弁済金の支払を受けられなければエスコリースに対して直ちに法的手続をとることが予想された。
また,本件融資@のうちの14億円の資金使途は,エスコリースの国内銀行(ただし,拓銀を除く。)及び生命保険会社などの金融機関に対する平成3年4月末日の利息金の支払に充てるものであって,これもいわゆる肩代わり弁済に相当するものであるが,これはエスコリース,拓銀及びエスコリースに融資していた国内金融機関との間で,エスコリースに関する金融支援協定を成立させるために必要なものであった。
(ウ) エスコリースは,ECCから十分な担保を取得しないままECCに対する融資をしていたが,エスコリースを直ちに破綻させた場合にはECCからの債権の回収が困難になることが予想された。そこで,エスコリースを直ちに破綻させず,ECCから担保を徴するなどさせることが必要であった。
そして,エスコリースが直ちに破綻することを回避することにより,358億円の債権回収が可能となった。
イ 本件融資@に関して,拓銀は,エスコリースから不動産について極度額40億円の根抵当権の設定を受け,リース債権25億円相当分について譲渡担保権の設定を受け,本件融資@の金額以上の担保手形を取得している。ウ 拓銀は,弁護士,大蔵省,日本銀行にも相談して,慎重にエスコリースに関する金融支援策を検討し,その内容の一つとして本件各融資があったものであるから,本件各融資は,合理的であった。
(4) 争点(4)(本件融資AないしC)について
(原告の主張)
被告A,同E,同B,同F及び同Dには,次のとおり,本件融資AないしCを承認する旨の決裁をしたことについて,善管注意義務等の違反があり,これにより,拓銀に対し,エスコリースから107億6500万円の貸付債権を回収できないという損害を被らせた。
ア 本件融資AないしCは,拓銀が平成3年5月ころに作成した金融支援策に基づくものであるが,それは,支援目標設定の合理性も支援目標として掲げられた事項(ECCの所有不動産の売却)の実現可能性もなく,損失を顕在化させることを先送りするものであった。
イ 本件融資融AないしCは,融資金の返済原資が全く予想されていないうえ,いずれも無担保であって,回収可能性が全くなかった。
ウ 上記金融支援策は,エスコリースに融資していた国内金融機関全部の同意が必要であるところ,本件融資AないしCは,その同意がないにもかかわらずされた。
エ 本件融資Cは,エスコリースに融資していた国内金融機関の一部に対する元利金の返済の肩代わりであって,法的には何らの義務なき負担であり,損失となることが明らかなものであった。
オ したがって,原告は,被告A,同E,同B,同F及び同Dに対し,商法266条1項5号に基づく損害賠償請求として,連帯して,本件融資AないしCによって生じた損害金107億6500万円のうちの20億円及びこれに対する訴状送達の日の翌日以後の日である平成11年2月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告A,同E,同B,同F及び同Dの主張)
ア 前記争点(3)についての被告A,同E,同B及び同Dの主張と同じ。
イ 本件融資A及びBについて
本件融資A及びBは,拓銀がエスコリースの運転資金として最低限必要であると認めた40億円の一部である。
拓銀は,エスコリースに関する金融支援協定が成立するまでの間,エスコリースに対して最低限の運転資金を手当てしなければならなかった。
そこで,拓銀は,エスコリースに対し,40億円の運転資金枠を設定したが,実際には,拓銀がエスコリースに融資した運転資金は,27億円にとどまった。
ウ 本件融資Cについて
本件融資Cは,金融機関の支援協定書に基づく各行融資の一部肩代わり資金であって,拓銀の策定した金融支援策を実施するための負担であった。
(5) 争点(5)(本件融資D)について
被告G,同C及び同Aは,次のとおり,本件融資Dを承認する旨の決裁をしたことについて,善管注意義務等の違反があり,これにより,拓銀に対し,日伯から本件融資Dについて27億5317万6340円の貸付債権を回収することができないという損害を被らせた。
ア 本件融資Dは,ゴルフ場開発資金として日伯がECCから受けた融資金の返済肩代わり目的で日伯に対してしたものであった。
イ 銀行の融資案件の中でもゴルフ場開発は少なくとも総額70億円程度が必要である反面,計画から完成まで数年を要し,一度融資を開始すると計画完成まで追加支援を余儀なくされる危険性を有するため,安全性の観点から一般融資に比し,より厳格な審査が必要である。
特にバブル期はゴルフ場開発が乱立し,他方自然保護運動の高まりもあり,自治体からの許認可取得の時間的目処が立てにくく許認可が下りなければ莫大な資金が水泡に帰するおそれがあるため,ゴルフ場開発融資においては何よりも開業の見通しが立つことが融資決定の必須条件であり,許認可の前提である自治体との事前協議が終了するまで銀行融資は行われないのが通常である。
ところが,本件融資においては融資当時許認可のみならず行政への事前協議書すら提出されておらず,この点に関する検討が不十分であった。
ウ 本件融資Dの当時,本件ゴルフ場開発の許認可がないのみならず,日伯はその前提条件である事前協議のための書類すら地元自治体(神戸市)に提出していなかった。
その理由は,当該ゴルフ場予定用地(神戸市北区道場町)が神戸市が昭和48年に条例で定めた「近郊緑地」地域(神戸市近郊の緑を守るため緑地帯の開発が制限された地域)に含まれており,当該地域周辺の「近郊緑地」の指定が神戸市により解除されなければそもそも本件用地にゴルフ場を建設することは許されなかったからである。
そして,指定解除の客観的見通しはおろか「近郊緑地」の地域の十分な調査・検討が具体的に行われないまま,本件融資は決裁・実行され,「近郊緑地」指定解除の具体的見通しも立たないまま時間だけが経過し,ゴルフ場開発に厳しい規制をかけたゴルフ場開発指導要項(平成3年9月20日施行)を神戸市が最終的にまとめたことを受け,日伯はゴルフ場開発を断念した。
エ ゴルフ場経営は日々の収益があまり期待できず,高額商品である会員権販売による投下資本の回収が期待されるが,その販売にはかなりのノウハウが必要であることから,会員権販売計画の具体性・実現可能性が非常に重要である。加えて,ゴルフ場開発は計画から完成まで長期間を要するプロジェクトであるとともに,会員権の購入希望者にとっても事業運営主体の事業遂行能力が重要な購入意思決定のポイントとなることから,事業運営主体のノウハウ,体力,経験が極めて重要であり,資金調達力を含めた事業主体の企業信用力がゴルフ場開発関連融資の必須の条件である。
ところが,日伯は料理店を経営していたに過ぎず,ゴルフ場開発のノウハウを全く持っておらず,代表者のLが積年の夢であるゴルフ場経営に手を出したに過ぎないというものであった。
しかも,日伯は本件融資当時本業の業績不振で経常赤字が拡大している状況であって,昭和62年4月にL一族で保有していたオリンピア本店土地売却により,拓銀は,債権の全額を回収し,今後の与信取引を解消しようとしていた。
このように,日伯にはゴルフ場の事業運営主体としての体力はなく,ゴルフ場開発案件で最も重要な事業運営主体の業務遂行性に問題があった。
加えて,ゴルフ場開発プロジェクトの骨格となる資金計画に明確なものがなく,およそ最終的に必要な融資額(運転資金も含む。)の調達方法も予測がつかない状態であった。
オ 本件融資Dに伴って日伯から拓銀に対して提供された担保不動産の評価につき,拓銀はいわゆる呼び値(鑑定評価額ではなく相手の言い値,売買価格等)をそのまま時価とした上,担保掛目についても建付地(建物等の用に供されている敷地で,建物等とその敷地が同一の所有者である土地)については掛目65%として評価すべきところを掛目80%として評価し,宅地以外の更地である山林(ゴルフ場予定地)については掛目40%として評価すべきところを掛目50%として評価をしており,当時の適正な担保評価に基づけば20億円にも達しない担保物件を,さも35億円程度あるかのようにして担保評価を行ったものである。
カ したがって,原告は,被告G,同C及び同Aに対し,商法266条1項5号に基づく損害賠償請求として,連帯して,本件融資Dによって生じた損害金27億5317万6340円のうちの10億円及びこれに対する訴状送達の日の翌日以後の日である平成11年2月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告C及び同Aの主張)
ア 本件融資Dについては,所有不動産40億円,根抵当実効価格14億円,リース債権25億円,ゴルフ場予定地に根抵当20億円,有価証券40億円,ゴルフ会員権,入居保証金などを担保としているのであって,相応の保全措置をした。
イ 本件融資Dの実行時の担保不足分4億4700万円については,保証人としてLを立て,その資産である「若竹」の入担念書を申し受け,十分な状況であった。
(被告Gの主張)
ア 拓銀のような都市銀行では,多数の業務を効率的に処理するために組織が作られており,代表取締役の権限も内部規程によって従業員に委譲されているし,また,上位の者が決裁する場合下位の者が調査した事実について特に疑問とすべき点がない限り,信頼を置くことが許される。
ゴルフ場開発許可の見通しについては,難波支店,東京第1支店部で見通しがあるということで担当本部長を通じて投融資会議に稟議書が上げられており,投融資会議ではそれを信頼して決裁をしたものである。
イ バブルの時代多くの会社がゴルフ場経営に乗り出したことから分かるようにゴルフ場経営には特に難しいノウハウは必要なく,ゴルフ場運営の実務を担当する従業員も容易に集めることができたのである。
また,ゴルフ場の会員権の販売も特に他の商品の販売と異なることはない。
バブルのころは金融商品としてゴルフの会員権を購入するものも多数いたが,まさに,その営業は保険,証券の営業と大差はなかった。
したがって,日伯がゴルフ場を初めて経営するとしてもそれは無謀な行為ではなかった。
ウ ゴルフ場の開発が許可されれば,土地の担保価値が上がること,許可にならないときは他の担保を取り付けることが検討され,融資に当たってもそのような指示がなされていることから担保評価が杜撰であったとはいえない。
(6) 争点(6)(本件融資Dに係る貸付金の弁済(貸替え又は切替)による損害賠償債務の消滅)について
(被告C及び同Gの主張)
被告C及び同Gは,昭和62年12月,本件融資Dの融資を承認する旨の決裁をした。
本件融資Dに係る貸付金は,昭和63年12月に返済された上,新たに担当本部長決裁で46億3900万円に貸し替えられ,平成元年12月に担当本部長の決裁で45億6000万円に貸し替えられ,平成2年12月に投融資会議の決裁で51億円に貸し替えられ,平成3年12月に担当本部長の決裁で貸し替えられた。
被告G及び同Cの決裁した本件融資Dに係る貸付金は弁済されているもので,拓銀には本件融資Dによる損害は発生していない。
(原告の主張)
金融機関の行う融資の「切替」は準消費貸借とするか更改とするかは当事者の合理的意思解釈によるところ,特段の意思表示がされない限り準消費貸借と解すべきである。
そして,本件融資Dについても,切替は実質的には従前の融資の更新,期限の延長であって,準消費貸借と解すべきであって,本件融資Dが回収不能になったことによる損害は存在する。
(7) 争点(7)(本件融資Dに関する善管注意義務等違反行為と損害との間の因果関係)について
(被告Gの主張)
本件融資Dの履行期に担保権の実行その他の法的手段を執ることができたにもかかわらずこれを怠ったため回収不能になった部分は,被告Gの善管注意義務等の違反との間に相当因果関係がない。
すなわち,平成3年時点で日伯の所有していた本件ゴルフ場用地の価格は60億円程度であり,転売可能であった。
拓銀は,平成12年8月23日,本件ゴルフ場の競売により1億5827万8000円を回収したのみであるが,その差額は拓銀の不作為による損害の拡大であって,その部分については,被告Gは責任を負わない。
(原告の主張)
被告Gの上記主張は争う。
(8) 争点(8)(本件融資Dに関する損害賠償債権の消滅時効)について
(被告G,同C及び同Aの主張)
本件融資Dは,昭和62年12月10日に実行されたが,それから10年後の平成9年12月10日が経過した。
被告G,同C及び同Aは,原告に対し,平成11年2月19日の本件口頭弁論期日において,消滅時効期間の経過による消滅時効を援用するとの意思表示をした。
(被告Gの主張)
ア 消滅時効期間
拓銀の被告Gに対する債務不履行に基づく損害賠償債権は,消滅時効期間を5年とする商事消滅時効の適用を受ける。
平成3年12月10日が経過したので,商事消滅時効の期間が経過した。
イ 時効中断の効果
本件債権譲渡は拓銀の代表取締役がしたものであって監査役がしたものではないから,本件債権譲渡は無効であり,本件債権譲渡が有効であることを前提とする本件訴えの提起には時効中断の効果はない。
仮に,本件訴えの提起に時効中断効を認めるとしても,本件においては,その時効中断効が発生する日は,拓銀の代表取締役がした本件債権譲渡について監査役が追認した日である平成12年12月8日である。
(原告の主張)
ア 消滅時効期間
株式会社と取締役との間の委任契約は商行為と見るべきではない。
したがって,拓銀(ひいては拓銀から債権譲渡を受けた原告)の被告らに対する損害賠償債権の消滅時効期間は,民法167条により10年である。
イ 消滅時効の起算点
株式会社の取締役に対する善管注意義務等の違反を理由とする損害賠償債権は,@損害が発生し,かつ,A当該取締役に対する責任追及が現実に期待できる態勢となって,初めて,権利行使が現実に期待できるものといえるから,そのときから消滅時効を起算することとなる。
それは,(a)損害が発生するまでは,株式会社が権利を行使することが不可能であるからであり,また,(b)当該取締役の在任中には,当該取締役が善管注意義務等に違反してした行為が隠蔽されていたり,あるいは明らかとならず,また,仮にこれが明らかになっていたとしても,当該取締役による事実上の人事権の行使などの諸事情によって当該取締役の意向を排してまで,株式会社が当該取締役に対する責任追及をすることが現実に期待できないからである。
本件融資Dは,その貸付金の返済期限が昭和63年12月9日(一括払い)であったが,融資当初から,昭和65年(平成2年)3月(ゴルフ場オープン予定)までは,継続扱いとすることが定められており,昭和63年12月及び平成元年12月には新たな投融資会議の決裁を経ずに返済期限が延長され,その後,3回にわたり返済期限が延長され,結局,平成3年12月に日伯の延滞が現実化したこと,本件融資Dを含む拓銀の違法融資についての原因究明が現実にされたのは,平成9年11月17日(拓銀破綻)以降であることから,本件融資Dに係る損害賠償債権の消滅時効の起算日は,昭和62年12月10日ではなく,早くとも,日伯の延滞が現実化した平成3年12月である。
ウ 時効中断の効果
(ア) 拓銀の代表取締役による本件債権譲渡は有効であり,本件訴えの提起の時点で時効中断の効果が発生する。
(イ) 監査役が本件債権譲渡及びそれに付随する一切の行為を追認したことによって,本件債権譲渡は本件債権譲渡時に遡って有効になるから,本件訴えの提起によって時効中断の効果が生じている。

争点に対する判断
印字
テープ
インク

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